2020年の推し記事は? ネット文章大好き編集者&ライターと振り返る(公式レポート)
2020年の推し記事を商業メディア・個人ブログ問わず振り返るトークライブ「2020年あなたの推し記事は? ネット文章大好き編集者&ライターと振り返る」を、12月18日に無観客でオンライン配信しました。第一部では登壇者4名がそれぞれ3本ずつ、推し記事をセレクト。第二部では「2020年のウェブメディア」についてトークセッションを行いました。
登壇したのは、オモコロ編集長・原宿さん、デイリーポータルZ編集者・古賀及子さん、ねとらぼ編集者・杉本吏さん、Webライター&某メディア記者・もぐもぐさん。推し記事のうち1本は、「新型コロナウイルス感染症が流行した年」という視点で選んでもらう形式に。「3本に絞るとか無理」と頭を抱えながら臨んでもらった本イベント、4人はどの記事をセレクトしたのでしょうか?(※記事末に12本一覧でまとめています)
登壇者・プロフィール
■原宿
「あたまゆるゆるインターネット」を掲げ、記事、漫画、ラジオ、動画など幅広い「ゆるく楽しめるコンテンツ」を届ける「オモコロ」の編集長。制作会社バーグハンバーグバーグの社員。バーチャル背景の笑いにみんなが飽きるスピードの速さに戦慄している。Twitter : @haraajukku
■古賀及子
1979年東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。2004年よりデイリーポータルZ参加。2005年より同編集部所属。これまで書いた代表的な記事は「納豆を1万回混ぜる」「決めようぜ最高のプログラム言語を綱引きで」「アイドルの話はプロレスの話に翻訳できるか ~文化にも通訳が必要だ~」。Twitter:@eatmorecakes
■杉本吏
「ねとらぼ」の中で深掘り取材やライターコラムなどを扱う「ねとらぼアンサー」の創刊編集長。2008年、アイティメディア入社。個人の日記サイトを読むことが一番の趣味で、名も知らない家族の日記を20年間読み続けていたりする。「マインスイーパー日本一の人」など、何かに狂った人を取材するのが好き。Twitter:@furunoda
(参考:https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1908/12/news003.html)。
■もぐもぐ
平成元年生まれ。小学生の頃にインターネットの世界へ。2010年、何の気なしに書いたブログ「ケータイと共に育ってきた女子大生がiPhoneに思うこと」がまったく予期せずバズってしまう。新卒でWeb業界に就職し、現在の主な仕事は某メディアでのライター。オタク女子サークル「劇団雌猫」としても活動中。劇団雌猫名義の編著に『浪費図鑑』『一生楽しく浪費するためのお金の話』『海外オタ女子事情』など。Twitter:@mgmgnet
■黒木貴啓(司会)
1988年生まれ、鹿児島出身。フリーライターを2年、「ねとらぼ」編集部で4年半活動後、2019年7月に(有)ノオト入社。マンガを介したコミュニケーションをつくるユニット「マンガナイト」で、マンガのレビュー執筆やイベント企画も行っている。Twitter:@abbey_road9696
体験記が重要な一年 コロナ禍を象徴する推し記事4本
黒木:2020年の推し記事のうち1本は、新型コロナウイルス感染症に関する記事を選んでいただきました。まずは古賀さんからお願いします。
古賀:私が選んだのはオモコロでzukkiniさんが書いた「コロナ禍の夏、ビザが切れアメリカから帰国するまで」。ネガティブじゃない語り口で、アメリカの話だけど知り合いに起きたような親近感があります。
今年は何が起こっているのか理解するために、新型コロナウイルス感染症に関する体験記を読み漁りましたよね。
杉本:読みましたね。現実が強すぎて、記事に味付けしなくてもいい特殊な状況でした。
原宿:この記事にオモコロっぽさはないけど、史料として貴重ですよね。zukkiniさんがオモコロで書いたのは5年ぶりでした。
僕が選んだ記事は、デイリーポータルZの「河原の石を8時間磨いた先に見えたもの」。3月に書かれたので、コロナ禍前の出来事だと思いますがセレクトしました。石を磨くだけではなく、これまでとこれからを見つめ直す時間が良かったですね。
<デイリーポータルZ「河原の石を8時間磨いた先に見えたもの」より>
杉本:友達と一緒に石を磨くんだけど、途中で「結婚したい」とか人生相談をし始めるんですよね。
原宿:そう。それに対して「まずは動かないとだめだよ」と友達が本気の返しをしてくれる。
今年は「在宅勤務になり家族の時間が増えた」とか、身の回りのきらめきにフォーカスしていった一年。陰鬱とした時間もあったけど、身近なところから笑顔を探そうと勇気づけられた記事です。
古賀:デイリーポータルZは、ライターの意向をなるべく尊重しているので、この記事も江ノ島さん発案でしたね。
原宿:面白いものって意外と半径5メートルくらいに隠れているんですよね。オモコロの「【漫画レポ】 冷蔵庫の上に乗ってみた」(野田せいぞ)もそれにあたると思います。
もぐもぐ:私が選んだのは朝日新聞デジタルの「幼子2人抱え、夫には持病が 感染した記者の60日間」。同社の記者である今村優莉さんによる署名記事です。
まだまだ感染者に対する目が厳しかった3月に感染した本人による貴重な記録です。PCR検査がなかなか受けられないなど半ばパニック状態だった当時の状況を思い出します。
古賀:感染の第一波、第二波、第三波で起きていることが違うから、感染者の体験記にも違いが現れますね。
もぐもぐ:ご本人のTwitterでは子どもが通う保育園の後日談も書かれているのですが、感染者が出たのをきっかけに休園し、預け先に困った保護者がほかの保育園に移り、結果、経営が苦しくなって閉園したのだそう。報道はされなくても、こういう事例が日本中で起こっているんだろうなと感じます。
杉本:僕が選んだのは28歳の女性が書いているブログから「志村けんが死んだから」。普通の日記なんですけど、タイトルがまず強いです。
ニュースでは新型コロナウイルス感染症の感染者数などの人数が独り歩きしているけど、実はもっと小さいストーリーが、世界中で起こっているんだろうなと感じさせます。対「国」や対「経済」ではなく、対「個人」でしか見えないものがあります。
古賀:同じような体験をした人たちが目に浮かびます。ブログの良さですよね。
流行をどう深堀するか 切り口を考えるのも大事
黒木:では、推し記事の二巡目、自由選に移っていきましょう。
原宿:岸田奈美さんの「全財産を使って外車買ったら、えらいことになった」。老後が不安な時代なのに、印税と貯金を全部使って夢を叶えるまでを、この1本の記事に書き切っているのが素晴らしい。岸田さんみたいな影響力のあるインフルエンサーが気持ちいいお金の使い方をしてくれて、さらに発信することで読者から「あっぱれ」みたいな応援が返ってくるところがいいです。
黒木:この記事は漫画化もされましたね。
原宿:書き手として読者から見られている人ならではというか、自意識とのバランスも取れている記事ですね。
古賀:私が選んだのは、オモコロの「落ちてるエロ本を探そう2020」。今年一番好きな記事です。ライターの藤原さんは書店やコンビニでちゃんとインタビューしているし、エロ本探しでは同じ銘柄の缶を見つけるなどの発見もある。考えるだけじゃなく、体を動かすのは大事だな、と。
杉本:見つけたゴミを拾っていくのも、実に2020年らしいですよね。悪ふざけをしているだけじゃなくて「やってること、えらいじゃん」という社会性をちゃんとまぶしている。
原宿:善行と絡めるのは今の時代にあっているし、エロ本の立ち位置まで探っていったのがよかったですよね。
もぐもぐ:私が選んだのは、まいしろさんの「『あつまれ どうぶつの森』の博物館はどうすごい? 一級建築士に聞いてみた」。これはもう傑作でしたよね。任天堂のこだわりのすごさと、建築家のプロ目線のマッチングが面白い。マニアックな話もあるけど、「博物館の〇〇には意味があったんだ」と、自分の生活に接続できる知恵があるのがいい。コロナ禍で塞ぎこんでいたから、自分の世界より外に広がりができたのも素晴らしかったです。
杉本:デイリーポータルZの林雄司編集長が、「『見えているのに見てなかったもの』を見つけたら勝ち」と言っていますが、それに通じますよね。本職の人が見ると、雑草もただの草じゃないみたいな。
もぐもぐ:続編として、今度はゲーム内の博物館の元ネタである東京・上野の国立科学博物館の学芸員に話を聞いている記事もあって、こっちも面白い! 流行ったものから深堀する方法って色々あるんだなと思いました。
黒木:流行にどう切り口を作るかは編集者、ライターとして試されるところですよね。今回の記事は語り口もまとめ方もいいし、キャプチャもわかりやすくて今風です。
<まいしろ「『あつまれ どうぶつの森』の博物館はどうすごい? 一級建築士に聞いてみた」より>
原宿:キャプチャに載せる文字って小さくなりがちですが、ちょうどいいですよね。デザイン力がある。
もぐもぐ:最近は、ライターにプラスしてほしい技術に「撮影」だけでなく、「動画」や「デザイン力」も出てきましたよね。このへんがうまい人は強いですねえ。
杉本:次は、ぺんてる社員の方が書いたエントリ「サイドノック式シャープペンが好きで入社したら廃番になった話」。僕が選んだ記事の中では比較的読んでいる人が多いと思います。中盤で構造転換する箇所があるんですが、「文章を人からほめてもらうと嬉しい」という原初的な創作の喜びを感じます。
もぐもぐ:廃盤になったシャーペンについて語っているのも、公式で掲載しているのも、推せますよね。
原宿:最後に僕が選んだのは、文春オンラインでDJ松永さんが書いた「『タレントDJは許せない。恥ずかしくないのか」と思っていた俺の気持ちはなぜ変わったか」。松永さんの気持ちって理解できるし、考えの変化を長文で説明するのって、キャンセルカルチャー(過去の発言や行動を指摘され、実績を失っていく)への対応として今後大事になると思います。
杉本:これを読んでいると星野源さんやオードリーの若林正恭さんが書いていたことを思い出します。世の中をひねくれた目線で見ていて、ある日「それって面白くない」と気が付くんですよね。
原宿:そう。人って変わってしまう。過去の自分が間違っていたと表明するにはTwitterの文章量では足りないんです。書きたいと思ったときに長文が書ける場所は大事。そのためにもプラットフォームや個人サイトを持つ大切さにも気づけましたね。
古賀:私が選んだのは、J-CASTニュースの「文房具が宙を舞う! 『競技人口1人」のスポーツ『フリースタイルノートブック』が話題に」。ノートを巧みに操る競技を一人で続ける三浦靖雄さんを、いじるわけではなく、始めた経緯などを真面目にインタビューする姿勢がすごく好ましいです。
フェイクニュースかと思うほど話が良くできていて、100点。学生時代の友人に「まだ競技を続けているんだな」と言われたり、派生形が現れたりと、展開があついです。
杉本:今の時代って、SNSが発達しているから「これをしたらバズる」が感覚でわかる。でも、三浦さんには「バズる」軸とは違う、圧倒的な本物感があります。
もぐもぐ:私はYouTuberのヨビノリたくみさんが書いた「数学検定1級に9歳で最年少合格した少年に会ってきた話」を選びました。ヨビノリさんはハイレベルな数学を動画で発信されている方で、その動画から独学で数学を学んだ9歳の男の子に会いに行く話。インターネットっていいなっていうピュアな感情を思い出させてくれるのが好きです。
YouTubeって悪いイメージも少なからずあるけど、うまく使うと可能性が広がるんだな〜、と感動します。何かに興味を持ったとき、学校に頼らずに動画で学ぶことができるし、仲間がいる感覚があるのっていいなって。
原宿:自分の子どもにはなるべく長時間YouTubeを見せないようにしているけど、その感覚が古いのかなって悩みますね。
杉本:この記事には、優秀な大人が自分をしのぐ才能と出会った時の興奮もありますね。
僕ははてな匿名ダイアリーから「ガードレール」を選びました。これは絶対にインターネットじゃないと読めない文章。最後の一行を読んだ時の感情を表す言葉を、人類はまだ発明してないんじゃないですかね。
もぐもぐ:なんというか……分類不可能な文章ですね。
杉本:まるで詩のように改行をしているんですが、それが現代の「雨ニモ負ケズ」(宮沢賢治)のようで。内容はほとんど怪文書なんですけど、なぜか読まされてしまう力があるんですよね。
Zoomに飽きてきた? コミュニケーションをどう取るか問題
黒木:ではトークセッションに移っていきましょう。まずは「コロナとウェブメディア」について。読者に記事を届けるうえでの意識変化などを伺いたいです。
原宿:新型コロナウイルス感染症の影響で対面取材をやめて、Zoomに慣れるまでの時間が必要でしたよね。そこから「意外とZoomでもできるね」となって、今は「ちょっと飽きた」時期。
もぐもぐ:気心の知れた相手と相談する分にはいいけど、培ってきた信用を切り崩している感覚ですよね。入社したばかりの人やインターン相手だと完全にオンラインは難しい印象。コミュニケーションをどう取るかが課題になりました。
原宿:オモコロも今年から入ったライターは、飲み会などがないので横のつながりが作りにくい。雑談からアイデアが生まれたりするから、その点では伸び悩んだかも。
古賀:デイリーポータルZの編集部は早い段階でZoomをつなぎながら仕事をするようになりましたね。さらに、ミーティングだけじゃなく雑談する時間を作ったら、前より顔を合わせるようになりました。やっていることがあっているかが雑談レベルで伝わるのでよかったです。結果的に私たち、10年以上一緒にやってきてここへきて急に仲良くなってしまった。
黒木:「動画周りの文化」についても伺いたいです。オモコロにはYouTubeチャンネルがありますね。
原宿:2019年5月から始めました。でも緊急事態宣言中に視聴者が爆増するなんてこともなく、マイペースに更新していますね。
杉本:YouTubeって好きなことをやって生きている感じがありますけど、その背景にはすごい努力がある。いばらの道ですよ。
原宿:完全な競争社会の中で、毎日更新をやっている大変な世界ですよね。
時々、俺はなんでGoogleのために働いているのかって思う時があるんです。こちらがプラットフォームを使わせてもらっている立場ですけど、いつの間にかGoogleがビジネスパートナーみたいになっている構図ですよね。
黒木:次に「エッセイの勃興」についても伺いたいです。
古賀:エッセイって、有名な作家や俳優のような天上人に許される印象がありました。それこそ「Web記事」とは別物のような。でも、ここ1~2年のうちに、エッセイのハードルが下がったと思います。それってnoteなどのプラットフォームができて、ネット上に文章を書く人が戻ってきた流れがあるからかなと。
杉本:著者が軸になるとエッセイになるんですね。noteはTwitterと同じように、サイト名を付けずに自分の名前だけで出せるからエッセイ的。最近はオモコロやデイリーポータルZとも違う、「ほぼ日」なんかと親和性の高そうな文体も出てきたように思います。先ほどの岸田奈美さんもそうですし、島田彩さんの書いた「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」とか。
原宿:noteはエモい文章が多くて、「うんこ」とか書いちゃいけない雰囲気がありますよね。最近は、手打ちタグを使うような個人サイトを持とうかなって思い始めているんです。
もぐもぐ:一生懸命HTMLもCSSも打ってましたよね。そのうちmixiが出てきて、そっちの方が楽だし、みんな見るから移動していったけどそれで失ったものもある。確かに今あえて個人サイトやるのはおもしろそうです。
黒木:あとは、「若いライターをどうやって育てるか」も伺いたいです。noteは岡田悠さんや岸田さんのような人材の発掘できるプラットフォームとして大事なんですが、見つけた書き手をどう育成していくかで課題が見えたのがcakesの炎上だったと思います。
もぐもぐ:書きたい人はどこにでも書きますもんね〜。0から手取り足取りしなくていいと思います。
杉本:売れさせようとして売れる業界でもないですからね。
育てるって、低いものを高いところにどう引き上げるかの話。僕はそれより、「邪魔をしない」ことの方が大事だと思います。自分のやり方としては、ライターの不得手なことを取り除いてあげるんです。「取材許可や校正などの面倒ごとは引き受けるからのびのびやってください」というスタンスでやっています。
原宿:どうフォローしていくかは課題がありますよね。書き続けていると自分の記事が出る刺激にも慣れてしまうし、記事1本では食べていけないから数をこなす必要がある。正直、そこまでモチベーションを保って業界に取り組めるかが問題。前はイベントで読者に会えてモチベーションにつながることが多かったですけど、今年はできなかったから。
古賀:そうそう。イベントっていうチヤホヤチャンスがないとね。でも、新人もやる気はある。続けているうちに「お金にならないから」って辞めてしまうんです。
原宿:でも、最初から金銭的なことを求められると、そういうスタンスじゃないんだよなって思ってしまう部分もありますね。ノートブックを自在に操る三浦さんみたいな異常な熱が先に来てほしいです。
* *
2020年はコロナ禍の影響が色濃い一年でした。そんな中でも史料として貴重な体験や、身近なきらめきが印象的な記事が取り上げられました。来年以降は、リモートワークだからこそ信頼関係をどう構築していくか、どう面白い企画を見つけていくかが課題として残りそうです。
2021年はどんな記事がインターネットに出てくるのでしょうか……? 原宿さんが新しい個人サイトにつけるタイトルと一緒に心待ちにしたいです。
(文:ゆきどっぐ 編集:ノオト)
ゲスト4人が選んだ2020年の推し記事と選定コメント
●原宿
・河原の石を8時間磨いた先に見えたもの(デイリーポータルZ/江ノ島茂道)
【コメント】コロナの時代において、みんなが遠くまで出かけなくなったことにより、日常の中の煌めきというのが一層尊く感じられたというのは2020年に起こったことかなと思います。身の回りの当たり前のものを見つめ直したり、身近な材料を工夫して楽しんだりとか。そんな中で江ノ島くんのこの記事は、河原で石を磨く、ただそれだけなのに「今まで」も「これから」も、自分につながっていく全ての時間がキラキラと愛おしく感じられるような、素晴らしい記事でした。記事というのは「今」を切り取るものですが、書き手の「今」だけじゃない時間も詰まっているのが、この記事の美しいところだと思います。バズらなくてもいい(この記事はそこそこバズっていますが)、激しくなくてもいい、ただ人間の手仕事の美しさをすくい取る。それでいいんだ、と思わされた記事です。
・全財産を使って外車買ったら、えらいことになった(note/岸田奈美)
【コメント】「もっともっと」と貯まりたがるお金の性質を打ち破った、非常に人間力のある記事だと思います。お金を気持ちよく使えるチャンスって実は希少だと思ってて、この記事はその少ないチャンスにバットを振り切った記事として大変素晴らしいです。いくら稼いだではなく、他人のためにいくら使ったかで共感を集める記事が、これからの時代にもっと増えていくといいですね。
・「タレントDJは許せない。恥ずかしくないのか」と思っていた俺の気持ちはなぜ変わったか(文春オンライン/DJ松永)
【コメント】かつての自分が吐き出した毒を言葉を堂々と訂正し、反省する。人間は本当に短い時間でがらりと思考が変わるものなので、「キャンセル・カルチャー」に対するカウンターとして、こういう姿勢がもっともっと出てくるといいと思います。変わることは別に恥じるようなことではなく、むしろみんなして変わっていかなければいけないので。ただそれをしっかりするにはTwitterでは文章が短すぎるので、こうして長文で詳細に書ける場所を持つというのは必要なことだと思います。みんな個人サイトをやろう。
●古賀及子
・コロナ禍の夏、ビザが切れアメリカから帰国するまで(オモコロ/zukkini)
【コメント】コロナウィルス周りに関してはとにかく体験記が注目をあつめた1年だった。専門家による解説が心の支えとしては第一だけど、その次に「何が起こっているのか」「なにが現実か」を知らせるものがネットの体験記だったと思う。ズッキーニさんは海外駐在員という立場から状況も特殊で、だからこそ見えたものを淡々とネガティブもポジティブも受け取ったとおり素直に書いてくれてとても貴重だったし、感情で盛らないからこちらもフラットに読めて「ありがたい」という気持ちだった。
・落ちてるエロ本を探そう2020(オモコロ/藤原)
【コメント】純粋に本当におもしろかった。まだエロ本探していいんだと目が覚めたし、まだエロ本探してこれだけおもしろいものが書けるんだと反省させられた。私たちはいつだって素人だったなって本当に思うんですよね。素人が手ぶらでやーってやって来て、行動力で取っていく、思ってることを書くんじゃなくてやったことを書く、フィジカルで記事を作って笑わせられたら一番強いですよね。この記事は身体性が100点。地方からのレポートで、最後に大量のごみをミニバンに乗せて帰っていくところが圧倒的に2020でした。
・文房具が宙を舞う! 「競技人口1人」のスポーツ 「フリースタイルノートブック」が話題に(J-CASTニュース/佐藤庄之介)
【コメント】良いインターネットここにあったなという思い。競技人口1人、中2からやっていて今は練度を高めている、学生時代の友人に見つかって「まだやってたんだな」と言われた、せっかく開発したので一生やる、など、(メタな書き方になっちゃうんですが)物好きとしての態度が完璧。ワイドショーとかバラエティが取り上げたらただ変わり者をいじっておもしろがる空気になっちゃうんじゃないかと思われ、J-CASTニュースさんによる見守る真顔の取材姿勢もすごく良かった。新聞ともちょっと違う取り上げ方だったと思う。
●もぐもぐ
・幼子2人抱え、夫には持病が 感染した記者の60日間(朝日新聞デジタル/今村優莉)
【コメント】3月、流行初期に新型コロナウイルスに感染した朝日新聞の記者さんの署名記事、全3回の1回。部屋から出られなくなったお母さんを呼ぶ子どもの反応が切ない。最近ご本人のTwitterで、自分の感染がきっかけで子どもが通っていた保育園が休園になり、子どもが減り、戻らず、閉園してしまったという後日談が書かれていて、ううう…という気持ちになった。。こういうことが日本中で起きているんだろう。
・「あつまれ どうぶつの森」の博物館はどうすごい? 一級建築士に聞いてみた(note/まいしろ)
【コメント】めちゃくちゃおもしろくてあつ森やりたくなった!!! こういうマニアックな話を、画像を交えて誰にでも読みやすく仕立てられるのは、Web記事というフォーマットの楽しさだなぁと思います。このあと、実際に国立科学博物館の学芸員さんたちに話を聞いていてそれも含めておすすめ。生き物ガチ勢。
・数学検定1級に9歳で最年少合格した少年に会ってきた話(note/ヨビノリたくみ)
【コメント】YouTubeを使った独学だけで大学レベルの数学、そして高校レベルの化学や物理に興味をどんどん広げている9歳の男の子の話。YouTube越しの「先生」であるヨビノリたくみさんはじめ、全員が優しくて最高。読み返すとインターネットへのラブ値がちょっと戻る。昨今の殺伐としたインターネットに疲れ気味の方におすすめです。
●杉本吏
・志村けんが死んだから(こんなもんです/あだちまる子)
【コメント】毎日「感染者数が何人」「重症者数が何人」と数字だけがひとり歩きしているかのように報道されていく中で、おそらくは世界中のあらゆるところで、この記事にあるような小さなやりとりが日々交わされていて――ということを思い起こさせてくれる文章。「一つはコロナに関する記事を」と指定されたときに、真っ先に思い出したものがこれだった。対「国」や「経済」ではなく、対「個人」で語られるときにしか見えてこないものが確かにある。
・サイドノック式シャープペンが好きで入社したら廃番になった話(ぺんてる シャープペン研究部/山田)
【コメント】文具メーカー社員による自社商品への熱い紹介文を読まされているのかと思ったら、途中で話が急転し、誰しも経験があるであろう若かりし日の創作欲求の話へとつながっていく。続編もあり、「自分が書いた文章を人に読んでもらえたらうれしい!」「さらに人から感想をもらったり褒めてもらったりするとめちゃくちゃうれしい!」という、すさまじくも原初的な創作の喜びが綴られている。身に覚えのある多少の気恥ずかしさも含め、あなたも私も、みんなこうやって文章を書き始めたのではなかったか。
・ガードレール(はてな匿名ダイアリー)
【コメント】絶対にインターネットでしか読めない文章。怪文書。何のために書かれたのかも、何を伝えたいのかもほとんどわからないのだが、「そういうものが読める」ということこそがウェブ記事のウェブ記事たる価値だと思う。文章が特別うまいというわけでもないのに、妙な「読ませる力」があり、改行のリズムは現代版「雨ニモ負ケズ」のよう。この文章を読み終えたときに立ち上ってくる感情を表す言葉を、人類はまだ発明できていない。