今年で3回目! 2021年の推し記事を、ネット文章大好き編集者&ライターと振り返る #推し記事2021
2021年に掲載されたウェブ記事で個人的に良かったものを紹介する「#推し記事2021 トークイベント」を12月15日、YouTube Liveでノオトが無料生配信しました。
今年もウェブ記事に精通する編集者・ライターの4名が、それぞれ3本ずつ推し記事を携えて集結! 後半には視聴者が選んだ推し記事も紹介しました。登壇者が見るウェブメディアの未来とライターに必要なスキルとは……!?
登壇者・プロフィール
■原宿(はらじゅく)
「オモコロ」編集長。制作会社バーグハンバーグバーグの社員。Twitter:@haraajukku
■古賀及子(こが・ちかこ)
デイリーポータルZの編集者。代表的な記事は「納豆を1万回混ぜる」「決めようぜ最高のプログラム言語を綱引きで」。Twitter:@eatmorecakes
■杉本吏(すぎもと・つかさ)
ニュースサイト「ねとらぼ」で深掘り取材やライターコラムなどを扱う「ねとらぼアンサー」の創刊編集長。個人の日記サイトを読むことが一番の趣味。Twitter:@furunoda
■嘉島唯(かしま・ゆい)
ニュースの編成をしながら、映画・音楽系のインタビューやガジェットの記事、エッセイを執筆する。Twitter:@yuuuuuiiiii
■黒木貴啓(くろき・たかひろ)<司会>
ノオト社員。マンガを介したコミュニケーションをつくるユニット「マンガナイト」で、マンガのレビュー執筆やイベント企画も行う。 Twitter:@abbey_road9696
コスパを気にしていたら、熱い記事はできない
黒木:今年も個人的良記事を振り返る時間がやってきました。
原宿:1年間、このために活動してきたと言っても過言ではないですからね。
古賀:選んだ12本は事前に読み合っているんですが、杉本さんでも知らない記事はありましたか?
杉本:さすがにありますよ!
黒木:視聴者の皆さんもぜひ飲みながらご覧ください。では原宿さん、乾杯の音頭をお願いします!
原宿:インターネット、万歳!(乾杯)
黒木:2021年の推し記事を登壇者から1本ずつ紹介してもらいましょう。
原宿:僕の1本目は弁護士ドットコムから『「混浴に勇んで行けば妻一人」話題の川柳「作者」追いかけ、息子に聞いた波乱の半生』です。人の人生って、なんて面白くてドラマチックなんだろう。「生きるって素晴らしい」と感慨を抱く記事です。
嘉島:こういう記事を弁護士ドットコムがやるとは! アグレッシブで責めていますよね。
古賀:記事に弁護士要素ってありました?
原宿:後半にちょっとだけ裁判に触れるんですよ。
古賀:執筆者は元東京スポーツ新聞の記者なんですね。
原宿:だから取材力もすごい。日常を掘り下げるだけで、とんでもない記事が生まれる。これってウェブ記事っぽいですよね。今年話題になった『東京の生活史』(岸政彦監修/筑摩書房)と似ています。
古賀:マンションの一つひとつの灯りに、家族が住んでいる現実を感じさせられておののくことがあって。まさにこれですよね。
原宿:プチ鹿島さんが「現代において一番のミステリーは隣人だ」って言っていたんです。
例えば、マンションに住んでいても、隣人について知りたくもないし、知られたくもないじゃないですか。でも、いざつついてみたら、この記事みたいな話が出てくる。ライターになりたい人は、近くにいる人へ聞くことから始めるといいかも。
古賀:次は私から、オモコロの『【初心者向けコミケ指南】もう1人でコミケを開催する』。過去の知見をぎゅんぎゅんに詰めて、コミケを真面目に再現している。その中には、「夏コミがなくて寂しい」という共感もあってーー。
ウェブ記事は情報と情緒のバランスが大事だけど、この記事には全部あるんですよね。それでいて、オモコロらしいコマ割の様式美を感じさせるのもいい。
杉本:己の魂によって書き上げているから、「誰も見ないよ!」っていう細かいところまでさぼってない。作った同人誌のPDFを記事の最後に公開しているんだけど、それがまさにそう。この記事、コスパが悪いんですよね。
原宿:コミケに対する愛ですよね。「俺の手で復活させたい」という。
コスパを気にしないのはオモコロライターでありがち。どのくらい時間がかかるかを企画段階で計算していないから、ここまでのボリュームになるんです。
僕らが戦っていかないといけないのは「ウェブ記事って、コスパ悪くないですか?」の一言。最初に挙げた弁護士ドットコムの記事もそうだけど、コスパを気にしていたらこういう熱い記事はできない。
損得勘定が狂っているのはライターの資質としていい部分だと思う。
杉本:編集者は壊れていたら駄目ですけどね。
原宿:そうですね。コスパ悪い記事を無理やりやらせるみたいになったら良くないですね。
嘉島:私からはランドリーボックスの『まるで職人技!? 生理をトイレットペーパーでやり過ごしていた日々』。
「生理が嫌」という気持ちやトイレットペーパーをぐるぐる巻きにして下着に入れた経験って、共感できる女子も多いんじゃないでしょうか。それをめちゃくちゃポップに書いていて、天才だと思いました。
生理って、ここ数年のトレンドでようやく出てきたんですよね。「こんなに大変だった」という恨み節の記事が多い中、これはいい意味で面白い。いろんな人に読んでほしい記事です。
古賀:以前から生理の話をしようっていう機運があって、今年はいよいよ盛り上がってきたな、と。
杉本:3~4年前に連載が始まったオモコロの『ツキイチ!生理ちゃん』もその一つですよね。
嘉島:前職のBuzzFeedで、本社のアメリカチームに読者からどんな記事が求められるのか聞いてみたんです。そうしたら、「本当は気になるけどリアルでは話ができない“生理と下着”だ」って言われました。私も最初は抵抗があったけど、生理の記事を書いたらめっちゃ読まれたんですよ。
杉本:grapeの『男性社員5人が生理用ナプキンを買いに行ったら…? 購入してきたものに驚き!』もいい記事だったよね。
嘉島:ありましたね……! このランドリーボックスの記事はTwitterモーメントから拾ったので、編集者はTwitterモーメントをどう使うか、考えてもいいかも。
杉本:僕の1本目は映画ドットコムの『「人生で観た映画は『プリティ・ウーマン』だけ」「累計400回観てる」 芸人・くまだまさしの噂は本当か?本人に聞いてきた』。この記事、震撼しませんでした?
嘉島:記事自体はファクトチェックをしているだけなんですけど、ホラーですよね。
杉本:取材が5分で終わる可能性があるこの企画にOKを出した、媒体と書き手の両者が狂っていないと成立しない記事。ネタにならないリスクを受け入れた上で賭けに勝ったタイプです。
黒木:インタビュアーの返しも上手いですよね。
杉本:最後の終わり方も落語みたいな感じで面白い。
原宿:世の中から雑談が減ったタイミングで発信されたけど、こういう企画って、雑談から生まれると思う。雑談は世の中に必要ですよ。
インターンも執筆、メディアの「育てる意欲」が問われる
原宿:僕が選んだ2本目は、『ため池に落ちると、なぜ命を落とすのか』。情報の細かさとお役立ち度、みんな知らなそうっていうバランスが、インターネット上での読まれやすさと合致していた記事です。
原宿:こういう記事がバズるのが、インターネットのいい部分。「ため池は危ない」って貼り紙を出したところで誰も読まないけど、ウェブ記事だとこぞって読んで、みんなに伝えようとする。
嘉島:5月9日に事件が起きて、10日に記事にするのは速いですよね。
杉本:「知って得する」「〇〇はなぜ××なのか」って、クリックしたくなるウェブ記事の定番タイトルだけど、「知らないと死ぬ」は訴求力が強い。
原宿:日常に転がっている題材を詰めていくといい記事になるんだなと思いましたね。
古賀:私からは『「多くの鵜ぼんやり」鵜匠、危機感 長良川鵜飼中止最多』。岐阜新聞のウェブ版からヤフーに転載されてバズった記事です。
私は新聞記事をウェブカルチャーとしてかみ砕いて面白がるのが割と好きで。その中でもこの記事が今年一番かなと。
会議の写真も最高だし。この人たちが一流の鵜飼いなんだって思うと、『HUNTER×HUNTER』でいう「十二支ん」みたい。
杉本:この記事で初めて鵜の意識に思いを馳せたよね。
原宿:鵜がぼんやりするなら、俺たちがぼんやりしてもしょうがないなって共感もある。
杉本:ウェブメディアだと作れない記事でもあります。
古賀:地域のニュースだし、アポ取りしたくても難しいですね。全国のネット民がなかなか読めない記事をピックアップしてTwitterに流すムーブも含めていいです。
嘉島:次は私から『トイレに“男女”の区別がなくなったら?国際基督教大学にできた「オールジェンダートイレ」を使ってわかったこと』。
インターンの記者がジェンダーという社会的な話を等身大で書いているのがいい! 「抵抗がある人も試してみたら」という温度感で書けるのは、書く力がある人だな、と。
杉本:説教臭くなかったですよね。
古賀:記事の冒頭で学生だと明かして、さらに否定的な意見も紹介し、そのうえで肯定的な意見に変わっていくのもいい。
嘉島:導入した学校もすごいし、否定的な意見もあるけど理解がないわけじゃないのが素敵。
黒木:ヨッピーさんが最近noteで、ライター志望者は社員ライターも狙い目、なぜなら「会社側に『育てる』みたいな意識がある」からだって発信されていたんです。媒体がインターン生にこういう書く場を積極的に提供しているのもいいなと思いました。
杉本:実際はそういうウェブメディアって多くはなくて、BuzzFeed以外にはwithnewsとか、NHKとか。媒体に地力がないとできません。
杉本:僕は、『レビューがヤバすぎるラーメン屋に行った日の話』。まず「店内が2つの派閥に分かれ客の奪い合いをしているラーメン屋」という素材の強さがとんでもなくあって。
その上で、一歩間違えると炎上だけでなく、さらしや怒られも考えられる難しい記事を、バランスよくまとめあげている。情報量が多いけど構成がうまいから、スッと頭に入りますね。
古賀:危うい記事って読んでいて「ここは怒られそう」って思うけど、この記事はそれがない。
原宿:熱量があって、ある意味では遭遇した出来事に書かせられた記事ですよね。
杉本:この記事、体験した当日中に漫画喫茶にこもって書き上げられているんです。損得勘定のない衝動と、確かな技術と、両方がそろわないと作れない感動的な記事だと思います。
インターネットならではの「ファンがクリエイターを支える」課金文化
黒木:それでは3本目。最後の推し記事です。
原宿:『なぜドット絵作家が、海外ファンからの課金支援で生活できるようになったのか?』。
原宿:インターネットってネガティブな部分を感じやすいけど、緩やかに繋がることで、助かる場面があるな、と。こういう面をもっと知ってもらいたいという意味で意義のある記事でした。
古賀:課金意識が高いのはインターネットならではの文化。
杉本:読んだ人に「豊井さんは才能があるからでしょ」と思ってほしくないですね。環境が整ったからできるようになったって話で、作品が先じゃないから。
原宿:ファンがライターを支えるファンコミュニティが広がってもいいんじゃないかって考えさせられましたね。
古賀:私はwithnewsの『「女王アリが死亡しました」 滅びゆく巣で働きアリが見せた社会性』から続くシリーズを選びました。「死亡しました」というパワーワードと、「滅びゆく」というエモーショナルな状況が印象的な記事です。
私はメディアが執拗にニュースを追う姿勢が好きで。新聞や週刊誌では「続報」があるけど、ウェブメディアだとあんまりないですよね。
黒木:僕が数年前に所属していたねとらぼもそうだったんですが、各ニュースウェブメディアはバズった出来事を後追い取材するのがテッパンで。
あれって深堀しても報われないこともあるので、1つのことを追い続けるにもリソースに限りもあるんです。だから、最後まで取材する記者も、それをさせてくれるメディアの土壌も大事ですよね。
嘉島:私の3本目は、『フジロックから考える コロナ禍の“分断”』です。NHKは取材力もあるし早い。文体の「ですます」調や改行の多さもいいです。
杉本:改行が多いのってスマホだと読みやすいですよね。「コロナ禍のフジロック」って炎上しまくってるから、報道すべき内容だけど手を付けにくい。この記事はいいバランスで書かれてる。
嘉島:NHKはエッセイ調の記事もやばいですよね。
杉本:『消せないメール』なんかは、僕らではつけないタイトル。たまに1本の記事に4名の署名が入っている時もあって、こういう取材スタイルもNHKならでは。
杉本:最後に僕からは、はてな匿名ダイアリーの『矢をバンバン射たくないですか?』。
2020年もはてな匿名ダイアリーから『ガードレール』という記事を選んだんですが、こういう目的のまったくわからない、だけど奇妙な迫力のある記事を選ばずにはいられないんですよね。
1行目から、読者の首根っこを掴んでくる。中盤の「そういう感情があるんだ/ないですか?/ないわけないよなあ!」もリズムがいいし、距離の詰め方が目の前に顔を突き出している感じで面白い。
古賀:終わり方もすごいですよね。これはいいものを読ませてもらいました。
杉本:僕がこういった記事を選出するときの基準は1つだけで、絶対にウェブでしか読めない文章であること。こんなの紙に印刷されないじゃないですか。
しかも匿名なんですよ? 例えばちょっとした自己承認欲求でTwitterや個人ブログに書きなぐるならまだわかるんですよ。
古賀:もしかしたらねぇ・・・カズオ・イシグロかもしれないよ?
一同:すごい(笑)
杉本:食べログ文学とかあるじゃないですか。2ちゃんコピペといい、そういう匿名性の高いところでこういう文章を書く人のモチベーションにめちゃくちゃ興味がある。
ウェブメディアの未来を示すレジェンド・佐藤記者! 50代でも顔を白塗りする勇気が君にあるか
黒木:ここからは、視聴者からいただいた推し記事をピックアップして紹介します。
杉本:ツイートで真っ先に届いたのがこれ。タイトルを口にしたくない(笑)。『AVを台本におこすと、何ページ目でAVだと気づくのか』。
古賀:私たちのマジスカスクエアガーデンですよ! バズっていて、昨年から波に乗っているメディア。
黒木:2019年のイベントで原宿さんが紹介した媒体です。
杉本:大学生の頃に友達とノリで無謀な企画を立ち上げたりしますよね。そういうのは大抵終わりが来るんですけど、この媒体は初期衝動でずっと走り続けているんです。
古賀:仲がいい同士でやっているからかもしれないけど遠慮がなくて、パートナーシップもいいですよね。
杉本:視聴者の推し理由が「読み終えても頭から離れなかった」から。
古賀:そう言われたくて私たちはウェブ記事を作ってますからね!
原宿:YouTubeに行かずにウェブメディアでやってくれているのは嬉しい。見守っていかないといけない。
原宿:あとは『【衝撃】“せんべろ”のプロが推奨する “せんべろ”の超進化形「パンべろ」が人としての一線を越えすぎていた』。
ロケットニュースが今とんでもないことになっていて、佐藤英典記者っていう50代のレジェンドが若手からいいように転がされている状況なんだけど、その役割を果たすのがすごいなと。
嘉島:おじさんって嫌われがちだけど、佐藤記者は若い読者からも好かれているのが伝わりますよね。
原宿:社会的に使命感に駆られた記事もヒットするけど、オールドタイプももう一度来ている。俺も顔に塗料を塗らないと! って気持ちになる。
古賀:「こんなの見たことない」が生まれにくい中、佐藤記者がウェブ記事の文化が一巡したとしっかりと示してくれた。
杉本:ネット調査で「大人のなりたい職業ランキング1位はライター」というのが話題になっていたけど、50歳でこれをやる仕事だってことを覚悟してほしい。
古賀:『犬が麻雀をするマンガ「無法者」がハイスペック動物マンガの新たな世界をこじ開けた話』は、バズりましたね。
黒木:推し理由は「画面下のキャプションが最高」です、と。
古賀:記事を書いたのはベテランの漫画レビュアーの方。
杉本:そうとう昔から続けられているブログで、『孤独のグルメ』人気を再燃させた人でもある。深く語れることはないけど、ただただ面白い。
古賀:こういう埋もれた面白いものを引っ張り出すのがウェブ記事の良さですよね。このマンガ、全コマをTシャツにしたい。
杉本:デイリーポータルZの林雄司さんが「素材が面白いときはこねるな」と。例えば、洞窟の底にある喫茶店を取材するなら逆立ちしながら入る必要はないって。
古賀:足していく芸風もあるけど、素材がいいときは自分を消さないとね。
杉本:あとは、『ダビデ像はどれくらいマッチョなのかジムトレーナーに聞いてみる』。今日のイベントが優秀記事アワードだったら僕も選んでましたね。
この書き手のまいしろさんといい、デイリーポータルZって、次々と才能あるライターが集まりますよね。
嘉島:どうやったらこんなに集まるんですか?
古賀:ありがたいことに、新人賞や毎週のブログ投稿に応募があるんです。そこを石川大樹っていう編集者がライターとして参加してくれないかと上手に誘ってます。
嘉島:ライターの育成って難しいです。皆さんはどうしてますか?
杉本:「育ててやる」という姿勢はおこがましくて、とにかく邪魔をするなと。作り手には集中できる環境作りをする。ぐいぐい来ているんだったら、余計な事をさせない。編集者は媒体のトンマナに合わせて整えてあげて、アポ取りなんかもしてあげればいい。
古賀:うちの場合、例えばライターの與座(よざ)ひかるさんは、ライター出身でない橋田玲子という編集者が担当していて。彼女はライターにあまりアドバイスをせず手厚く取材をサポートして見守るんです。
他の編集が與座さんを担当していたら、あんなふうには育てられなかったなと思う。
原宿:オモコロでは育成を深く考えてなくて。雑談を大事にして、同じ目線で遊んで、社交辞令を言わないようにしています。
「〇〇をやろう」という話になったらその日のうちにチャットワークでグループを作るとか、コミュニケーションを大事にしたいなって。
古賀:2019年のイベントで、なぜコミュニケーションを大切にされているのか伺ったら原宿さんは「クリエイターは孤独だ」とおっしゃってましたね。
原宿:そう。だから一緒に遊んで話がしたい。面白そうならやろうよ、と。
嘉島:先ほど與座さんの話が出ましたが、『お世話になった人にサインをもらいにいく』が良かった。
嘉島:お世話になった人って読者にも共感があるし。詳しく書かれていなくてもその人との関係性が伝わるのがすごいです。
古賀:原宿さんが今日の冒頭で言っていた「人の人生には面白くてドラマ性がある」に通じますよね。
嘉島:芸能人の話題はPVを取れてもシェアはされにくい。結局、人の心を動かすのは、こういう一般の人の話だったりするんですよね。そういうのを発掘できるのがウェブメディアの良さでもあると思います。
原宿:僕は今年古賀さんのツイートでハッとしたのがあって。
以前から制作者が集まるとみんなで不思議がってることだけど、SNSでは「こんな発見を、または、制作をしました!」という一次情報は広がりにくい。「こんな発見を発見しました」の二次情報のほうが何倍も拡散する。二次情報の場合、出典が記されない方がより広がりやすい。
— 古賀及子 冬コミ12/31西く40a (@eatmorecakes) November 15, 2021
原宿:ウェブ記事って、書いた人が「書きました」って言わないと見つけてもらえないから自分で言うしかないんだけど、自分で告知するのって「この記事が面白いと思っています」って表明することでもあるから、ハードルが上がるんですよね。
古賀:私のツイートには「口コミの方が広がりやすいもの」とリプライをもらって、その通りだなと。
原宿:お店が「おいしいですよ」って言うより、第三者の評価の方が信用できるってことですよね。
嘉島さんがCINRAで書いていた『深夜の視聴者を震撼させた、実験的すぎるテレビ番組『蓋』の手応えをディレクターに聞く』で、テレビ東京の上出遼平ディレクターが「インターネットは自分で(読みたいものを)探しにいくからびっくりしない」って主旨の発言をしてるんです。これって告知の話と通じるな、と。
嘉島:あの発言を聞いた時は敗北感っていうか、「せやな……」と脱力して。上出ディレクターは「テレビは殴りに行ける。だから、殴りにいきたいんだよ」って。
インターネットはサムネとタイトルで内容がわかるから、殴りにいくのは難しい。
杉本:わからないようにしたら、怒られますからね。
原宿:「自分の書いた記事が面白い」ということに自覚的な人が書いている……という見せ方をもっと工夫できないのかなっていうのは感じます。でもそういう部分が認識されてることが、新たな裏切り方につながるかも。来年以降の課題ですね。
杉本:ラストは『特別養子縁組を利用し母を終えた私のはなし。』。誠実に書かれていて、本当にいい記事でした。
古賀:人生のしんどいことをこんな風に書けるんだと。
嘉島:ご自身の血肉になるまで嚙み砕いて理解しているんでしょうね。
杉本:重い話なんだけど、読む側に強いてこなくて読みやすい。
古賀:取材すると「大変な思いをしているんだ」って気持ちまで背負ってしまうけど、自分で書いているから出せる軽さがある。書いてくれてありがとうって気持ちです。
黒木:さて、残念ながらそろそろ終わりの時間です。総括をお願いします。
原宿:軽い気持ちでライターを始めて構わない。だからどんどん周りの面白い話を聞いて記事にして、好きなメディアに送ってほしい。聞く人が増えれば面白い世の中になると思います。
古賀:映像を見る時間が増えて時間の奪い合いになる中、ウェブ記事に対する自信が削られる1年間だった。でも、こうして話し合って確信した。あと50年間は大丈夫。だって、俺たちの佐藤記者が先を示してくれているから!
嘉島:テレビドラマなんかでもウェブメディアや業界はひどい描かれ方をしていることがあって、ウェブ記事の一番楽しい時代が終わった感じがしていた。でも、今日は面白い記事はたくさんあるし、むしろ発掘していく余地があるんだなって思えました。
杉本:読者は、クリエイターに軽い気持ちで「面白い」と言ってもらいたい。マイナスの声が大きく聞こえてしまうことも多いけど、「面白かった」と言われるだけでコスパ悪い記事を作る原動力になるから。
黒木:ありがとうございました!
* *
2021年はリモートワークやオンラインイベントの認知が進む中、ウェブメディアの必要性が問われる1年間となりました。
「生理」や「ジェンダー」に関する話など、これまでは大きく語られなかった物語が新しい切り口で日の目を見ることも。それにコミュニケーションが取りにくい時代からこそ、TwitterなどのSNSを通した発信に励まされた人もいるはずです。
来年はどんなムーブメントが起きるのか。1年間の移り変わりを楽しみにして今年とはお別れです。2022年もインターネットで記事に感情を揺らされながら、また年末にお会いしましょう。
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