ライターは個性を出すべきか? 顔出しライターたちによる「キャラづくり相談会」 五反田 #ライター交流会 公式イベントレポート
2017年8月26日、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」で月例のライター交流会が行われた。トークセッションのテーマは、「ライターのキャラづくり相談会」。登壇者2名と有限会社ノオトの代表がトークを展開した。
<トークイベント登壇者>※敬称略
■下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)など著書多数。ホットペッパーグルメのオウンドメディア「メシ通」では、キャラ立ちした食レポを執筆している。
Twitter:@maguro_shimo
■モンゴルナイフ
北海道は知床出身。オモコロライター。一般企業でまじめに働いていたが、「顔が変」という理由でオモコロへ加入する。『オモコロ』『ヌートン』『アルカパ』『ジモコロ』などで、主に体を張った記事を執筆中。『男はつらいよ』の寅さんを目指し、日々精進している。
Twitter:@amanattif
■宮脇淳
1973年3月生まれ、和歌山市出身。雑誌編集者を経て、25歳でライター&編集者として独立。5年半のフリーランス活動後、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。「品川経済新聞」編集長、コワーキングスペース「CONTENTZ」管理人、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」オーナー。
Twitter:@miyawaki
宮脇:司会を担当する有限会社ノオトの宮脇淳と申します。今回の交流会は「ライターのキャラづくり相談会」ということで、気鋭のキャラ立ちライターのお二人に来ていただきました。まずは自己紹介をお願いします。
下関:下関マグロです。地元は山口県下関市で、ライターネームもそこにちなんでいます。ライター歴は35年くらいで、今年で59歳になりました。書籍の活動もしており、最近も本を何冊か出しました。よろしくお願いします。
モンゴル:モンゴルナイフと申します。普段はOLをやりながら兼業ライターとして活動しています。主にオモコロというサイトで、体を張った記事を多く書いています。地元は北海道の知床のあたりです。よろしくお願いします。
宮脇:今回のトークテーマは「ライターのキャラづくり相談会」。昨今のWebメディアではライター自身が顔出しし、時には体を張って記事にするケースも増えてきました。そんななか、キャラが立ったライターとして積極的に活動されるお二人にお話をお伺いできたらと思います。
●特徴的なペンネームの由来は?
宮脇:それではQ&A方式で進めていきますね。まずは「ペンネームの由来」について。今日登壇されている二人とも、ちょっと名前にひとクセありますよね。どのように決めたのか教えてもらってもいいですか?
下関:僕は昔、雑誌の読者コーナーを担当していたんです。そのときの編集長に、本名では名前が堅いからペンネームをつけろと言われたのがきっかけでしたね。当時は僕以外にもう一人のライターがそのコーナーを担当していまして、そちらが北尾トロというペンネームをつけたんで、じゃあこっちはトロに対してマグロにするか、という適当な決め方だったといいますか。
宮脇:ご自分で決められたというわけではなかったんですね。モンゴルナイフさんはどうですか?
モンゴル:私も自分で決めたわけではないですね。私はオモコロの人たちに名付けていただいて。以前はモンベルナイフという名前だったんですが、紆余曲折ありまして……。結局今の名前に落ち着きました。
宮脇:ちなみに本名は未公表でしたっけ?
モンゴル:そうですね。実は私、ライター活動していることを親に言ってないんですよ……。体を張った記事を書いたりしていますが、家ではホントおとなしいので(笑)。こないだ実家に帰ったらお父さんが「下関マグロさんの記事、好きなんだ」って言ってて。バレるのも、もう時間の問題かも……(苦笑)。
宮脇:このイベントのレポート記事が出たらバレそうですね(笑)。
●自分はいったいどんなキャラ?
宮脇:それでは次の質問に行ってみましょう。お二人がどういうキャラなのか、「ご自分のキャラの説明」をお願いしてもいいでしょうか。
下関:僕は別に自分でキャラクターを作ってきたわけではなくて、編集者さんやクライアントに求められるキャラクターを演じてきただけなので、具体的にどういうキャラなのかっていう説明は難しいですね。
宮脇:なるほど。自分主体というより、周りから求められて?
下関:そうです。ちなみに、僕は下関マグロという名前の他に、本名の増田剛己(ますだたけき)という名前でも活動しています。前者の方ではくだけた記事、後者の方では真面目な記事をお願いされたりしますね。
宮脇:自分の人格を切り替えるような、場合によって使い分けている、と。モンゴルナイフさんはどうでしょう?
モンゴル:私は普段の生活で出さない部分をインターネットで発散しているという感じですね。それで、変顔したり体を張ったりする記事を書いています。私個人として「こういうキャラでやっていこう!」って考えたことは特にありません。
●キャラ立ちのメリット・デメリット
宮脇:お二人からご自分のキャラクターについてお伺いしましたが、「キャラ立ちして得したこと、また損したこと」があれば、教えてもらってもいいですか?
下関:得したことは、やっぱりすぐに名前を覚えてもらえることですかね。そこがけっこう大きいと思います。
モンゴル:私もすぐに名前を覚えてもらえるので、やはりそこは大きいと思います。ネットに関しては、目に留まってお仕事につながることも少なくないですし。損な部分でいうと、活動内容とペンネームのせいでまじめな仕事が来ないこと?(笑)
下関:本名で仕事を始めるとまじめな仕事が来て、そうじゃない方には変な仕事が来るということはあると思います。もし違う仕事をしたいということであれば、自分の別名義を立ち上げるというのは全然アリだと思いますよ。
宮脇:そういった受け皿の広げ方もあるということですね。そういえばモンゴルナイフさんは以前ブログをやっていたそうですが、キャラの関係で閉鎖してしまったんですよね?
モンゴル:そうなんですよ。普段の記事ではけっこう体を張ってふざけた記事を出しているのですが、ブログでは「スイーツ食べた」とか「旅行に行った」とかけっこうキャピキャピした内容を書いていたんですね。そうしたら「記事では変なことやってるけど、ブログはつまんないな」とか言われたりして。恥ずかしかったのでブログを消しました。
宮脇:難しいですよね。キャラが立ってしまったがゆえに、普通のことが書きにくくなってしまうという……。
●行き詰まったら心の中のギャルを呼び出す?
宮脇:それでは4つ目の質問に入りましょう。ズバリ「自分のキャラをどう原稿に込めている?」
下関:僕の場合、下関マグロはふざけている感じで、本名の増田剛己はちょっとまじめな感じで切り分けています。原稿にどう込めるかというところですが、そこも周りから何をどれくらい求められているかになるのかな、と思いますね。もっと笑えと言われたら笑うし。裸になれと言われれば裸になりますし。
宮脇:周囲の要望に応えることに、そこまで徹底されているんですね。モンゴルナイフさんはどうでしょう?
モンゴル:私はOL仕事で抑圧されてい感情を原稿に込めて解放しているので、そのために「心にギャルを飼う」ということをしていますね。
宮脇:心にギャルを飼う……?
モンゴル:原稿が辛くても「マジヤバイじゃ~ん」って楽観的になれますし、〆切が近かったら「マジ卍!」って感じで頑張っています。
宮脇:(笑)。セルフマネジメントとして、自分自身のキャラというよりは自分の中にキャラを作っておくということですかね。
●理想の仕事のスタイルは?
宮脇:次の質問は「お二人の理想の仕事スタイルは?」です。マグロさんいかがでしょう。
下関:自分は基本的に、お金をもらえればなんでも書きますね。ですので、あまり仕事の内容にはこだわっていないです。
モンゴル:私は、媒体によっておふざけNGだったり、自分のキャラが出せなかったりするシーンもよくあるので、自分のキャラを出せて伸び伸びと仕事ができたらいいなと思います。
宮脇:マグロさんは職人的で、モンゴルナイフさんは芸人的といえそうですね。それでは最後の質問です。「ライターとして大事にしていることは?」
下関:これは先ほどのスタイルの話にもつながるのですが、僕にとってライターの仕事は、左官屋さんとか八百屋さんとかみたいな職人でもあるし、あくまで職業の一つ。個人の思想や内情に関係なくやるものですね。だから、基本的にお金さえもらえれば、何でもやるというスタンスで仕事をしていて、来た仕事はほとんど断りません。
昔、大宅壮一が憲法について執筆を頼まれたときに「擁護派で書きますか、反対派で書きますか」と言ったそうです。大宅さんはジャーナリストや評論家という肩書をもっていましたが、それ以前にライターだったんでしょうね。その話を聞いて、自分もそういうスタンスだなって思いました。
宮脇:自己表現のためではなく、文章を書いてお金をもらって生きていくためにという感じですね。モンゴルナイフさんはいかがでしょう。
モンゴル:私は今の自分のキャラを愛しているので、ふざけられないものはダメですね。顔を出さないコラムの仕事が来たりするんですけど、それは断る場合もあります。
宮脇:モンゴルナイフさんは、「モンゴルナイフ」というキャラクターのイメージをとても大事にしているんですね。ここで、登壇者だけのトークセッションは終了となります。ありがとうございました。
●Q&Aタイム
宮脇:今回は「ライターのキャラづくり相談会」と銘打っているので、いらっしゃっているお客さんはキャラづくりに悩んでいる人が多いのかなと。どうですか? (手を挙げながら)キャラづくりに悩んでいる人~?
そこそこいますね。ということで、それぞれどんな悩みがあるのか聞いていけたらと思います。
——現在カードゲームを扱う会社にいるんですが、ルール説明の際、どうしても単調になってしまいます。何か特徴的な話し方や文体など、キャラづくりをすべきなんでしょうか。
下関:それは、現在の単調な説明のままでいいと思いますよ。あくまでも解説はプレーヤーのサポートなので、プレーヤー以外の人間が主役になってしまうのはおかしいと思います。自分のキャラを出したいのであれば、どこかそれ以外のとこで出していったほうがいいですね。
——ライターの皆さんは全員、得意分野とか好きなものがあるんでしょうか。私は今そういうものがないので、これからどうしたらいいのか悩んでいます。どうやって自分を出していけばいいのでしょうか。
下関:僕はライター始めたころ、自分のキャラを出さなきゃと思ってへんてこな原稿を出して、次から仕事が来ないということが結構ありました。初めのうちは、とにかく来る仕事をバンバンやっていったほうがいいですよ。その中で、編集者側が「この人、この分野向いてるんだな」と思って、向いている仕事を振ってくれる可能性もありますから。
宮脇:若いライターさんは、さほど興味のない分野の仕事でも背曲的に引き受けた方が、後々の肥やしになりますからね。関係ない分野で新たな気付きを得ることもありますし。
モンゴル:私は、キャラ立ちって記事でいきなり出すものじゃなくて、TwitterとかのSNSでキャラを立てていくことが前提にあると考えています。まずはSNSでキャラ立てしてから、仕事に結びつけるほうがいいのかなと感じました。
これは聞いた話なんですが自分の好きなものを見つけるためにはまず自分の好きなものを100個紙に書き出すといいらしいです。そうして自分の好きなものにちゃんと向き合う時間を取るっていうのは、キャラ立てでも自分の方向性を見つける意味でも大切かなと。
——今は「VALU」など、キャラを活かせるような新しいビジネスモデルで、これまでとは違う稼ぎ方もできるのかなと思っています。お二人が今後、新たに考えていることがあれば聞かせてください。
モンゴル:ヌード写真を出さないかという話が来たことがあって。やるつもりはないんですが、意外と悪くないなって思いましたね。あとは、新しいビジネスモデルでいま思い付いたんですが、自分の記事をメルカリで売ったりできないですかね。権利もお譲りします、みたいな。
——今後どういうライターになりたいのかというイメージはありますか。
下関:どんなライターになりたいかというか、もっと稼げるライターになりたいという気持ちはあります。自分の書籍もこれまで以上に出せたらいいですね。
モンゴル:今はOLとライターの兼業ですが、ゆくゆくはライター業で生活を立てられたらうれしいなと思います。自分の顔が出ている記事を週2くらいで出して。あとは糸井重里さんにTwitterで取り上げられてみたいです。
昨今のライティングではライター自身が顔出し、また体を張った記事を書くケースが増えてきた。今回の交流会では参加者から積極的な質問が行われ、その回答にうなずく人も多かったように思う。ライターとしての色を出すためにはどうしたらいいか、そんなことをうかがい知れたのではないだろうか。
(執筆:神田 匠/ノオト 編集:田島里奈)